2017年4月10日月曜日

第172回 「鞍上人なく、鞍下馬なし」

あれやこれやで遂に六巡目ですね。
振り返ってみれば、平成24年の春に、僕がトップバッターを務めて始まったこの企画も六年目に入りました。

今回は、「くるま」のお話し。

ウチは、父親が車好きだったこともあって、小さいときから、家の中に車雑誌が散乱していました。といっても今のようにたくさんの雑誌が出ていたわけではなく(なにせ1950—60年代!)、 motor fanなどの老舗雑誌が数誌出版されていただけの状態でしたが、カラーグラビアで見るヨーロッパの美しい車達に魅了されて、小学生になる前からそれらのスポーツカー達の写真はぼろぼろになるまで見ていた記憶があります。大学生になって(ようやく公式に)車の免許を取って、最初の車が、父の払い下げ車である、日産のブルーバード510SSSという「名車」でした。世界のラリーで活躍した車のベースで、日本中いろいろなところを走り回り、10万Kmのトリップメーターが“0”になったことを覚えています。

といっても、こんな昔話をするのが今日の主題ではなく、車のトランスミッションのお話し。

今の日本は世界で最もオートマチック車(以下AT車)が普及している国で、2010年の統計によると、なんと普通車の98.3%がAT車です!1985年にはまだ、50%以下の比率でしたが、急速にAT車の比率がアップしたようです。まあ、これには日本の交通事情も大きく影響しており、万年渋滞の大都会のドライバーにとっては、ATは必需品でしょう。一方ヨーロッパの各国を見ると、まだまだマニュアルシフト車(以下MT車)が幅をきかせており、AT車の比率は、(2010年)ドイツ23%、イギリス20%、イタリア14%、フランスに至っては、たったの9%と言う状況です。アメリカはどうかというと予想通り90%と高いですが、それでも日本には及ばないのですね!

僕は免許を取って以来、一貫してMT車に乗っています。だからと言うわけではないですが、ここからMT車礼賛の辞を。MTの動作というのは、左足でクラッチを切り、アクセルをゆるめ(シフトダウンの時はアクセルを少しふかし)手でシフトの操作をして、アクセルを右足で踏みつつ、左足のクラッチをつなぐ、という、実に複雑な動作を要します。すこんとレバーをドライブモードに入れたら、あとは右足のアクセル(とブレーキ)操作のみ、というATと比べると格段に複雑なことを、ギヤを入れ替える時に毎回するわけです。しかもスタート時は微妙な半クラッチ操作で右足と左足のコンビネーションを要求されます。「めんどうなばっかり」というなかれ。この複雑な手足のco-ordinationが、実に脳を刺激して良いのです。ぼけ防止にもきっと良いはず(全く根拠はなし)。しかもこのような複雑なことをしていると、「脳が覚醒している」状態が保たれます。最近の車は「リラックスして運転できる」ことばかり追求していますが、車の運転時はリラックスなんかしてはいけません!大きな鉄の塊を高速で動かすのですから、常に他人も自分も命を失う可能性があることを意識してないとだめです。というわけで、運転時は脳が「起きている」状態を保ちましょう!そのためにも是非、MT車を運転してください。AT限定免許の人は、練習して限定解除しましょう(笑)!

なんて、いろいろ屁理屈をこねましたが、実はMT車の「機械を自在に操る」感覚が最も快いからボクはマニュアルシフトを捨てられないのだと思います。シフト時の微妙な回転数の変化をぴたりとコントロール出来たときの喜びを感じつつ、今日も愛車「通勤1号」を駆って走ります。

「鞍上人なく、鞍下馬なし」の境地(馬は飼えないのでくるまで代用)を味わいつつ、あなたも走ってみませんか?

病院長 武田(内科)