2017年9月10日日曜日

第187回 脳血管内治療(カテーテル手術)とは

カテーテル治療と言えば、特に心臓の分野で有名となり、今や誰でも一度はカテーテルという言葉を聞いたことがあると思います。脳の分野でも本格的にカテーテル治療が行われるようになり出したのは1990年代からです。脳血管内治療は、まだ20年程度の歴史しかありませんが、カテーテル関連器具の進歩が著しく、今なお急速に進化し続けています。

ところで心臓では手術は心臓外科、カテーテル治療は循環器内科と役割分担がなされていますが、脳の領域では手術はもちろん脳神経外科が担いますが、カテーテル治療もほとんど脳神経外科の医師が担っています。神経内科やあるいは放射線科の医師も一部では脳血管内治療に携わる方もいらっしゃいますが、これらは非常に少ないケースで全体の数%程度に過ぎず、脳血管内治療を行うことのできる医師の90%以上は脳神経外科医です。ちなみに、これはあくまで日本独自の事情であり海外では「神経放射線科医」と呼ばれる放射線科の医師が活躍している国や、神経内科の先生がもっと多く占める国もあります。日本では歴史的に脳神経外科の先生たちが手術(いわゆる開頭手術)もこなしながら、カテーテル手術(脳血管内治療)をも発展させてきました。このような手術もカテーテル手術も出来るエキスパートを脳外科の世界でも「二刀流」などと呼ぶこともあります。しかし、技術の進歩とカバーする範囲の拡大に伴い、日本においても徐々に分業が進みつつあり、ちらほらと「脳血管内治療科」あるいは「脳血管内治療科の教授」というものも全国に誕生しつつあります。

脳血管内治療とは、誤解を恐れず簡単に言ってしまえば脳の中で行う「水道管工事」です。一番多い工事案件は、「水道管からの水漏れ(=脳出血)」と「水道管の詰まり(=脳梗塞)」です。しかし水道管と違って、太くても数mmの太さしかない脳血管の中での作業、さらに少しでもトラブルを起こせばたちまち重大な後遺症や生命に関わる事態となりうる脳血管内治療は一筋縄ではいきません。ちなみに脳の血管で一番太い内頚動脈でも4mm程度の太さですが、穿通枝と言われる0.2-0.3mm程度の細い血管を1本損傷するだけでも重篤な麻痺などの後遺症が起こり得るのです。現在臨床で日常的に使用される極めて細いカテーテルでも径1mm程度はありますし、現在市販されるカテーテルのうち、最も細い特殊なカテーテルでも0.4mmの太さはあるのです。器具が進歩しバルーン、ステント、吸引カテーテル、コイルなど様々な道具が使えるようになりつつありますが、上記のような太さの制限、合併症の制限もあり、まだまだ出来ることは限られています。すべての水漏れ(=脳出血)に対応することは到底不可能であり、現在最も多く行われているのは、脳出血の中でも、動脈瘤からのくも膜下出血という病気に対するカテーテル手術(動脈瘤コイル塞栓術)になります。また水道管の詰まり(=脳梗塞)に関しても、カテーテル手術が適応となるのはごく限られた場合(超急性期かつ、太い血管の詰まり)だけであり、すべての脳梗塞の中でも1~数%程度に過ぎません。

そんな脳血管内治療ではありますが、やはり「傷の痛みが無いこと」「術後の回復が早いこと」などなど従来の手術に比べて、そのメリットは計り知れないものがあります。単純に開頭手術と比べる訳には行きませんが、今までの手術では出来なかったことが出来るようになったり、あるいは今までは達人にしか出来ないウルトラC難度だった手術が、カテーテルで誰でも簡単に治療できるようになったりする場合もあります。日進月歩で器具が進歩し、また脳血管内治療を行える専門医も続々と誕生している現状、今後の脳血管内治療の進歩に注目しつつ、微力ながらその発展に貢献したいと思っています。

脳神経外科 後藤